最高にゴキゲンな選挙映画が公開される。鋭い社会批評で知られるラッパーのダースレイダー氏と、時事ネタお笑い芸人のプチ鹿島氏が主演と監督を務めて、ここ数年の日本の選挙に足をはこんだドキュメンタリー映画である。プロデューサーの大島新が「日本のマイケルムーアになり得る」と言い、原一男監督が「アドベンチャー・ドキュメンタリー」と呼ぶように、製作者がここまで選挙の現場に切り込んで様々な反応を引き出すドキュメンタリーは他に類を見ない。

日本の選挙のドキュメンタリーと言って真っ先に思い浮かぶのは想田和弘監督の観察映画『選挙』(2007年)だ。あちらが「観察」によって世界から抽象的なテーマを切り出す〈彫刻〉のようなものならば、こちらは「突撃」で人々に切り込み、撮影者が被写体を巻き込みみんなで演じる〈演劇〉だ。カメラを向けてその場をステージにしてしまう。時に笑い、時に感激させられながら、永遠に観つづけてたいと思わせる鑑賞の楽しみも、(なぜだか秘匿されている)日本の選挙を覗き見て好奇心を充たす愉しみも、間違いなくそれは「見世物」としての選挙だ。それは想田が活写した小泉劇場とは異なる“劇場型政治“である。

公開前週の週末には「街宣活動」と称し、実際の選挙カーを用いた街頭PRイベントが行われた。ストリートでは四月の統一地方選に向けて実際の選挙活動が真っ盛りの時期だが、ある選挙スタッフが「ライバルかと思ったら選挙映画の宣伝でした!」と楽しそうにしゃべっている声を聴いた。カメレオン(いや、ここではワニとしておきたい)ばりの擬態である。それはパロディだったわけだが、そういえばそもそも映画がつくられる元になったYouTube時事漫談番組「ヒルカラナンデス」の名前もまた、民放の裏番組「ヒルナンデス」のパロディだった。コロナ禍にコンテンツ産業に起きた「表裏」のひっくり返しを感じさせる、メインストリームに対するカウンターだ。このパロディはシニカルな政治風刺ではなく、選挙にこびりついた「真面目」をエンタメ化する、とても楽しいひっくり返しだ。

選挙を楽しい舞台にして、政治を楽しい劇場にする。日本が民主主義をとりもどす一歩を予感させるドキュメンタリーである。続編希望!

(文=小森真樹)

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

※2023年2月18日より渋谷シネクイント、ポレポレ東中野ほかで公開
『劇場版 センキョナンデス』
2023 年/日本/ドキュメンタリー/109 分/DCP
監督:ダースレイダー プチ鹿島
エグゼクティブプロデューサー:平野 悠 加藤梅造
プロデューサー:大島 新 前田亜紀
音楽:The Bassons(ベーソンズ)
監督補:宮原 塁 撮影:LOFT PROJECT 編集:船木 光 音響効果:中嶋尊史
宣伝:Playtime 配給協力:ポレポレ東中野 配給:ネツゲン
©「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会