雑誌『広告』の装丁がおもしろい。

博報堂による業界誌としてはじまった本誌は、近年では編集長が毎期交代しながらコンセプトを変えて刊行されてきました。「いいものをつくる、とは何か?」を考える“視点のカタログ”として2019年にリニューアル創刊した今期の編集長は、クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー小野直紀さん。非常にユニークな位置づけの人文系雑誌になっています。

※バックナンバー一覧: https://kohkoku.jp/backissues/

ここで取り上げたいのは、「そとみ/外見」の話。特集テーマを反映してデザインされた装丁が毎号おもしろくて、たとえば、特集「価値」では1円ショップを開設しつつ、本誌も1円で販売し、販売・購入する行為を通じてその価値について問いかけます。「流通」号は、雑誌の個体ごとに異なる編集=印刷=販売店までの経路がラベルにプリントされていて、包装用かと思しき段ボールボックスが、実は雑誌カバーになっている。「虚実」の装丁をAmazonサイトなどのサムネイルで見ると、斜め上から純白単色の本が黒字背景に示されている。でもそれが手元に届くと、実は、漆黒光沢の装丁に斜めから撮影された白い本がプリントされていたとわかる。おまけにスマホのアプリまで開発されて虚実を撹乱しようとします。

こうしたトリックのあそび心は、本の装丁であまり見かけない貴重なもので、とてもたのしい。プロダクトデザイナーたる小野編集長の本領発揮というところでしょうか。

また、特集コンセプトに引っかけているのは現代美術的なおもしろさもあります。他方でシニカルやシリアスな方向にはあまり振れずに、あくまでウィットに富む、くらいのバランスでまとめて軽やかに開かれているのは、今期の特集テーマが「いいものをつくる、とは何か?」だったり、ご自身のスタジオに「YOY(ヨイ)」という名を冠している小野さんらしいような気もします。

筆者の恩師でもあるブライアン・サイモン先生のスターバックスでのフィールドワーク本の装丁を思い出しました

※過去の装丁についてくわしくはこちら:
雑誌『広告』|Vol.416 特集:虚実
雑誌『広告』|Vol.415 特集:流通
雑誌『広告』|Vol.414 特集:著作
雑誌『広告』|Vol.413 特集:価値

最新号「文化」もワクワクして届くのを待ちました。届いたものは「赤」単色で塗られた辞書のようなかたち。

この意味はなんぞや? と、思っていたら、じつはグラデーションで微妙な色違い版がたくさんあって、コンセプトは「同質のなかの差異/差異のなかの同質」とのこと。「文化」を表すのにこうきたか!

連動企画として、「赤から想起するもの世界100カ国調査」も実施公開中です。いろいろな連想が膨らみます。うっかり(?)追加で数冊購入をしてしまいました笑。

リニューアル号以来の装丁デザインチームは、グラフィックデザイナー上西祐理さん、加瀬透さん、牧上寿次郎さんの三名ということです。今月末にはその背景をひもとくイベントも開催されるそう。

→「赤から想起するもの世界100カ国調査」https://note.kohkoku.jp/n/n571eb6b1da7e

→「1冊ごとに色味が異なる「赤」〜『広告』文化特集号の装丁に込めた思いと制作の裏側」https://note.kohkoku.jp/n/n51c2dca155b1

→五つの関連イベントが開催されます「#1【4/30開催】「文化」をいかに体現するか〜『広告』文化特集号のデザイン秘話」

今期の『広告』は最新号で一区切りのようですが、今後はどのような展開となるのでしょうか。そして、またいつか小野氏の装丁しごとをどこかで手に取る日もたのしみにしています。

(文:小森 真樹)

※最新号には筆者も「文化とミュージアム」のテーマで寄稿しています(詳しくは→https://phoiming.hatenadiary.org/entry/2023/04/05/004621 ) 

 

【取扱店】
https://kohkoku.jp/stores/

【最新号・目次】

・文化とculture 社会学者 吉見俊哉 × 『広告』編集長 小野直紀 文:山本 ぽてと
・ドイツにおける「文化(Kultur)」概念の成立とその変質 文:小野 清美
・文化と文明のあいだ 文:緒方 壽人
・まじめな遊び、ふざけた遊び 文:松永 伸司
・建築畑を耕す 文:大野 友資
・断片化の時代の文学 構成・文:勝田 悠紀
・現代における「教養」の危機と行方
・哲学者 千葉雅也 × 『ファスト教養』著者 レジー 文:レジー
・ポップミュージックにおける「交配と捕食のサイクル」 文:照沼 健太
・カルチャー誌の過去と現在 文:ばるぼら
・「文化のインフラ」としてのミニシアターが向かう先 構成・文:黒柳 勝喜
・激動する社会とマンガ表現 文:嘉島 唯/編集協力:村山 佳奈女
・中国コンテンツをとりまく規制と創造の現場 文:峰岸 宏行
・SNS以降のサブカルチャーと政治 文:TVOD
・開かれた時代の「閉じた文化の意義」 哲学者 東浩紀 インタビュー 聞き手・文:須賀原 みち
・文化を育む「よい観客」とは 文:猪谷 誠一
・同人女の生態と特質 漫画家 真田つづる インタビュー 聞き手・文:山本 友理
・ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか 社会学者 田島悠来 × 批評家 矢野利裕 構成・文:鈴木 絵美里
・ディズニーの歴史から考える「ビジネス」と「クリエイティビティ」 文:西田 宗千佳
・ラグジュアリーブランドの「文化戦略」のいま 文:中野 香織
・成金と文化支援 日本文化を支えてきた「清貧の思想」 文:山内 宏泰
・経済立国シンガポールの文化事情 文:うにうに
・流行の歴史とその功罪 文:高島 知子
・広告業界はなぜカタカナが好きなのか 「いいもの」は未知との遭遇から生まれる 文:河尻 亨一
・クリエイティブマインドを惹きつけるアップル文化の核心 文:林 信行
・未知なる知を生み出す「反集中」 文:西村 勇哉
・「ことば」が「文化」になるとき 言語学者 金田一秀穂 ×『広辞苑』編集者 平木靖成 聞き手・文:小笠原 健
・風景から感じる色と文化 文:三木 学
・「共時間(コンテンポラリー)」とコモンズ ミュージアムの脱植民地化運動とユニバーサリズムの暴力 文:小森 真樹
・京都の文化的権威は、いかに創られたか 構成・文:杉本 恭子
・生きた地域文化の継承とは 3つの現場から見えたもの 構成・文:甲斐 かおり
・ふつうの暮らしと、確かにそこにある私の違和感 文:塩谷 舞
・過渡期にあるプラスチックと生活 なぜ、紙ストローは嫌われるのか? 構成・文:神吉 弘邦
・文化的な道具としての法の可能性 文:水野 祐
・「日本の文化度は低いのか?」に答えるために 構成・文:清水 康介
・イメージは考える 文化の自己目的性について 文:中島 智