博報堂の雑誌『広告』の歴史を振り返る展覧会。この雑誌は期間ごとに編集長が変わる体制で、小野直紀編集長の下での今期の活動を振り返るものだ。空目しそうになるが、タイトルは〈雑『広告』〉である。
 冒頭のステートメントには、「この展覧会も『雑談』のなかから生まれた企画です。『雑談』そのものを目的とした展覧会」とある。「雑誌」という言葉から連想したと思しき展覧会タイトル〈雑談『広告』〉は、この雑誌の歴史にもちゃんと乗ったものである。今期の雑誌『広告』は、特集を「価値」「著作」「流通」「虚実」「文化」と続け、その書名も含めて”漢字2字”を一種のスタイルとしてきたように見える。
 会場は、赤坂にある博報堂オフィスの13階の一角。会議室をそのまま展示室に転用している。展示資材もオフィス家具だ。「博報堂のコンセプト誌」という本誌が持つ意味を、展示というヴィジュアルにおいても見せている。
 メインの展示物は、今期発行した五つの特集をそれぞれ紹介するもの。オフィスデスクで設えた五つの「島」が展示ブロックとなっている。「価値」「著作」「流通」「虚実」「文化」という特集のコンセプトと、それをプロダクトデザインとして表現した装丁の制作プロセスが解題されている。

「流通」特集でつかわれたボール紙の装丁サンプル

 また、五つの島の中央には、縦につなげたOA用紙で「壁」が設置され、それをパーティションにしたスペースがつくられている。OA用紙それ自体も展示物で、紙面にはウェブ上に保管された各号の記事へのQRコードが描かれていたり、取材時に編集長が記した日付入りの打ち合わせメモだったりする。このように本展は、誌面をつくる過程とつくられた成果を見せるアーカイブ展となっている。
 さらに、展覧会のコンセプト通り「雑談」が行われている。パーティションのなかを会場に、一日4回会期中はひっきりなしに編集長とゲストのトークライブが行われている状態である。
 展示設計の面でとても新鮮なものだと感じたのは、展示素材としてのトークの位置づけである。展示のデザインは、動線やモノの配置などにとどまらない。本展の鑑賞者はバックグラウンドでラジオを聴いているような状態になり、”本編”としての展示物を「観」ながら、直接間接に関連する”雑談”をランダムに「聴く」構造となっている。
 展覧会とは、本質的に観るメディアである。じっさい聴覚情報をうまく展示に組み込んだ例はそれほど多くないように思える。この点、本展の「聴きながら観る」展示手法は美術館や博物館などでも様々に応用できそうなものだ。〈雑談『広告』〉というタイトルには「展覧会/展」という言葉が入っていない。展覧会形式であるが展示と名乗らないのは、観る展示と同時に聴くイベントでもある点を象徴している。
文・写真:小森真樹

雑談『広告』

2023年6月9日(金)~18日(日)
11:00~20:00(最終日は18:00まで)
会場:博報堂(東京都港区赤坂5-3-1 赤坂Bizタワー)
入場無料
https://kohkoku.jp/exhibition/